ご用意されていなかった言葉
「コトバ」山本高史さんの修行時代のコラムを読んで、
自分もコピーライターになりたてだった頃のことを思い出した。
学校を出て制作プロダクションに就職して1年目。
先輩の指導の下書かせてもらったのが、とある大手ホテルの
サービス紹介ブローシャ(小さいリーフレット)。
まず自分でひと通り書き、そのあと先輩に見てもらったのだが、
その時に入ったある直しの言葉に強烈な違和感を感じて
真っ向質問したことがあった。
その言葉とは、
「ご用意しています」
「ご利用になれます」。
以下、先輩にグイグイ迫った私の質問。
「小さいお子さまのメニューも ’ご用意しています’ って変とちがいますか?
'ございます' '用意しています' ではなんであかんのですか?
(大阪の会社でした:)」
「'ご利用になれます’ も変な感じします〜。
'利用' の中にもう ’何かする’ という行為が入ってるし 、
'ご利用になれます’ やと意味かぶってる気するんですけど」
「それに、丁寧語で 'ご利用’ ってなんかすごい違和感あります。
'お使いになれます' ではあかんのですか?」
途中のやりとりは忘れてしまったが、
チーム長でもあるコピーライターの先輩は上記をじっくり聞いてくれて、
最終的に
「こういう時に'ご用意しています'って書くのは普通なんや。
おまえの言うてる表現でも合ってるけど、このクライアントの刷り物では
こういう時はこう書くんや」。
そうおっしゃったと記憶している。
そしてその後数ヶ月で(これくらいはかかった気がする)、
私もこの言い回しにすっかり慣れてしまった。
「ご用意しています」「ご利用になれます」。
説明コピーの常套句には独特の言い回しがあると思う。
社会人経験がなくコピーなど書いたこともなかった私の語彙の中に、
この言葉はまだご用意されていなかったのだった。
注目をあびるようなキャッチコピーでもなく
心を打つようなボディコピーでもなく、
説明パンフレットの中の小さな部分のフレーズではあるが、
その時の自分にはそれがとても大きな疑問で、
納得しないと先に進めなかった。
今思うと先輩、困っただろうなあ…
その時の違和感は、もう微かにしか思い出すことができないけど、
思い出してふと内省的になったエピソード。