耳にきこえてくるもの
目が、見たいものだけをみているとしたら、
耳は、聞きたいことだけを聞いているのだろうか。
能動的にヒトの話を聴く、訊く、ではなく
意識せずとも聞こえてくるさまざまな「音」について。
雑踏を歩いていると、
ふとすれ違ったカップルや自分を追い越して行った人が
口にしている言葉が耳に入る。会話や通話中の声や。
「…だからそれは先週出したって…」
「w請求書ゼロ1個多く書いて出…」
「…それ回収してますから…」
混んでる電車の中でも。
若いカップルの甘い会話はもちろん、年配女性の噂話や
出張(?)サラリーマンの大阪弁や。
急に雨の音が大きくなって耳につく時がある。
夕方5時の音楽が鳴ってはっとする。
絶妙のタイミングでカラスが「アー、アー」と鳴いて笑ってしまう。
突然子供を叱りつける女性の声に動揺する。
こういう音はどれも、
ひとたび考え事を始めると全く聞こえなくなるのだが。
いつか観た、最果タヒという素敵な詩人の詩を映像にした
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」という映画は
ヒリヒリ切ないラブストーリーだったが、
音の鳴り方が本当にすばらしかった。
雑踏の、群衆の、居酒屋の、道端の、深夜の。
登場人物の気持ちが聞こえる音を選んでいるんだろうな
(という演出意図だったのかな)、と感じた。
映画でも演出でもないけれど、
日常で自分の耳がひろう音はきっと、
その時の気持ちがキャッチしているのだろう。