サバ缶とボッコちゃん

青魚と短編小説をこよなく愛するコピーライターです。 ブログタイトルは時々変わります。

共感おばけ(©本谷有希子)

 

先日の午後、ラジオでライターの武田砂鉄氏と

劇作家の本谷有希子氏の対談を聴いていて、はっとした。

 

本谷氏の新作小説についての紹介からの流れで、

彼女曰く 

「何かものを創る際に『共感されるものを書こう』って

 してしまったら作り手として終わりだよね。

 (という話を以前武田さんとしましたよね、という流れ)

 つい、いいねやフォローをさせたくて発信してしまうけど、

 そこに捕まったら終わりだと思う。」

と。

 

さらに彼女はこうも言っていた。

「共感をしたい、って(いう内面の衝動を)”共感おばけ” と呼ぶ」

「私が最近めざしているのは、

 誰もいいねがつけられないものが尊いんじゃないか(ということ)。

 何か発信して、いいねゼロって逆に難しいよね」

 

自分の仕事、コピーライティングでは、

読んだ人からいかに多くの共感を得られるか、

いかに多くの人にその企業や商品に対して

「いいね」と思ってもらえるか、ということに腐心する。

そしてずっとそのための技術を磨いてきた。

もちろんそれは、

広告メッセージの制作にはクライアントを代弁して

広く多くの人に告げるミッションがあること、

その効果にギャランティが支払われていることから当然のことで、

結果少しでも世の中を驚かすことができたら!

と思って作文している。

しかしこれは、彼女が言っていることとは真逆だ。

  

なるべく「いいね」をもらわない、

できるだけ誰にも共感されない事柄を書く、なんて離れ業に、

そしてそれを野心とめざす彼女のスタンスに、

単純に感心してしまった。

 

作家にも「なるべくいいねが欲しい」と思っている人は多いだろうし、

コピーライターなんていいねほしがる文案屋さ、なんて

卑屈になる必要はないと思うけれど(謙虚でいる必要はある)。

いわゆる作家と呼ばれる人との発想法や解放され度の違い、

文章を懸命に編むということにおいて

コピーライティングが宿命的に負う「共感獲得必須」に

今さらながら気づかされたのでした。

 

(対談で話題にしていた本谷氏の新作こちら。回し者に非ず:)

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