サバ缶とボッコちゃん

青魚と短編小説をこよなく愛するコピーライターです。 ブログタイトルは時々変わります。

夏休みの終わり〜映画「フロリダ・プロジェクト」から

 

ふと。

子供の時って「いつまでも子供でいたいな〜」とは

思わないんじゃないかな。

その幸せをまだ他と比べたことがないから。

 

少し前に「フロリダ・プロジェクト」という映画を観た。

定収入がないためアパートを借りられず、

ディズニーワールド周辺のモーテルに暮らす若い母親ヘイリーと

6歳の娘ムーニーをめぐる人々のひと夏の物語。

ぷっくりと体温が高そうなムーニーは、

その体全部で毎日を謳歌している

(子役のブルックリン・K・プリンスがかわいい!うまい!)。

母親ヘイリーは偽香水売りでなんとか生計をたてているが

素行が悪く、周辺に迷惑をかけながら次第に追い詰められ、

やがて誇りにできない商売に手を染めてしまう。

 

おしゃまなムーニーの世界は、

同じモーテル暮らしの友達と笑い、走り、悪戯をする毎日で

子供らしくて影がなく、とても幸せそう。

青い空、ぼうぼうと茂る緑の濃い草。

カラフルな建物の入り組んだ中につくる秘密基地や

友達と交互になめるアイスクリーム。

そんなシーンに、子供時代の夏休みを思い出した。

ヘイリーはいわゆるヤンキーというかDQN的な人なのだが

そこに陰惨な育児放棄などはなく、

貧しいなりに娘にせいいっぱい愛情をかけて、

育てているというよりまるで戦友同士のように

二人で懸命に生きている。

19歳の母ヘイリーもまた大人になりきっていないのだ。 

 

映画は定石通り、楽しい日々は突然に終わる。

ちっちゃなムーニーはある時期の自分に別れを告げて

歩き出さないといけなくなる。

 

成長しなければならないことは、辛い。

 

少し前、虐待されて命を落とした女の子の事件があった。

そのことをここで論じるつもりはないけれど、

たった5つの女の子が文字を覚えて反省文を書いていたということが

いたたまれなくて深く同情した。 

子供の時は「いつまでも子供でいたいな」とは思わないだろう。

その時代の幸せをまだ他と比べたことがないからだ。

そんな年ごろなのに無理やり大人にならなければ

ならなかったんだとしたら、かわいそうすぎる。

 

何かを知ったりわかったりすることを、

若い時には「成長」という。

年齢が上がると「成熟」や「老化」「悟り」と言ったりもする。

知ったとたんに知らなかった時代は過去になり

無垢だった自分がどんどん遠くなっていく、寂しさ。

その気持ちは、なんだか夏休みの終わりに似ていると思った。

 

これからも何度も何度もくる、夏休みの終わり。

映画のムーニーも自分も、

その寂しさをこのあと何回も噛みしめて生きていくんだろうな。

 

f:id:akubikkuri:20180713153825j:plain