サバ缶とボッコちゃん

青魚と短編小説をこよなく愛するコピーライターです。 ブログタイトルは時々変わります。

気づいたら知恵袋一丁目。

 

今回は情けない話です。。

 

コピーを書くとき、特にボディコピーに何かたとえ話をはさむときは、

必ず何らかの文献にあたり、根拠を調べて書いています。

みなさんやっていることだと思うのですが、

あるエピソードを紹介したコピーを読んだ人から質問がきても、

こういう事実があります、とクライアントからも回答できるように

資料をバックアップしておく。

コピーライターは書いている時間よりむしろ資料を探したり

研究したりする時間がの方がよほど多いかもしれません。

本を買ったり図書館に行ったり、時には知り合いを頼んで

識者に会いに行ったりもしますが、もちろんまずはネットを駆使。

…そこでやっと本日のお題です。

 

資料探しの旅に出て、気づいたら知恵袋一丁目。

 

さまざまな雑学出典を漁ってサーフィンしているうちに

だらだら漏れ出る好奇心。ゴシップ好きの側面。

「昔と今はこう変わったのかふむふむ」

「先月にはこんなのも出てる〜なになに他にも?」

「この人はこんな使い方もしているのか」

「おやここに怒っている人がいるぞ」

「あっちの新聞は何て言ってる?」

「で世間ではどう思ってるの?」

「わかるわかる。それ嫁が悪いわ」

 

…ん嫁?ここはどこ? 

もう2時間たってる! 

 

競合のサイト、周辺ニュース、識者のブログ、コメント欄、

等々を乗り換えてハッと気づくとy○○○○知恵袋の

「葬儀で手伝わない弟の嫁」なんて相談文を読んでいたりするのです。

苦笑。

苦笑している場合ではない。。

誰かに話しかけられでもしないと止まらない。

それらの好奇心が殺すのは、貴重な時間なのでした…


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スタンプカードにまつわる気持ち

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渋谷からの帰り道に、

すごく好みのラテが飲めるスタンドがあって、時々買っている。

カードにスタンプをためるのも楽しみで、

毎度財布から出してはチマチマ捺してもらっている。

はて。たまると何いいことあるんだっけ? 

…そこからふと思い出した。

スタンプカードの原体験といえば、

夏休みのラジオ体操である。

 

一学期が終って翌日、夏休み初日から始まるラジオ体操。

朝6時前。

「やっと夏休みなのに〜!?」と大人なら全力でボヤくだるさを

子供ゴコロにもモヤっと秘めながら、

寝ぼけ眼で布団をめくられ頭からスポンと服を被せられて

顔にちょちょっと水をつけたらすぐドアの外。

前日、リボンを穴に通しておいたカードを下げて、

校庭や公園など指定の場所へ行く。 

 

道々、三々五々近所の子たちが合流してくる。

ほとんど眠りながらふらふら歩いてる子や、

よく吠える小さい犬を連れてる子や、

お父さんらしい人に抱えられてる子、

…学期が始まってすぐちょっと気になってるあの子もいる。。

幼稚園から一緒で仲良しだったお嬢さんぽい子は、

一度服を裏返しに着てきて、気づいてずいぶん恥ずかしがった。

 

寝ぼけ顔の昭和のチルドレンが、

会場に着く頃にはだんだん目が覚めて騒がしくなる。

ラジオ体操第二で深呼吸を終える頃には

ハンコの列に我先に向かわんとダッシュの姿勢に。

音楽が終わるとすぐ、大人が台を出しているところに

おしあいへしあいしながら並ぶ。

 

それで終わり。

何がうれしかったんだろうか。

皆勤しても何ももらえなかった気がするな。

毎日たまっていくハンコを見ること、

捺してもらえるとき大人に「はい!(がんばってるねニュアンスで)」

と言ってもらえること、

朝の空気がひんやりしてて気分がいいこと、

そんなのが楽しかったんだな。

ハンコはちゃんとマス目の中に

きれいに捺してほしいな、と毎日思っていた。  

 

いまコーヒー屋のカードを見てみたら、

3ポイントごとに50円おまけと書いてあった。

気づいてなかった〜

スタンプためるモチベーションに全く関係ない〜

でも、コーヒーはおいしい。

そして、ラジオ体操のことはいつでも思い出せる。

 

 

耳にきこえてくるもの

 

目が、見たいものだけをみているとしたら、

耳は、聞きたいことだけを聞いているのだろうか。

能動的にヒトの話を聴く、訊く、ではなく

意識せずとも聞こえてくるさまざまな「音」について。

 

雑踏を歩いていると、

ふとすれ違ったカップルや自分を追い越して行った人が

口にしている言葉が耳に入る。会話や通話中の声や。

「…だからそれは先週出したって…」

「w請求書ゼロ1個多く書いて出…」

「…それ回収してますから…」 

混んでる電車の中でも。

若いカップルの甘い会話はもちろん、年配女性の噂話や

出張(?)サラリーマンの大阪弁や。

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急に雨の音が大きくなって耳につく時がある。

夕方5時の音楽が鳴ってはっとする。

絶妙のタイミングでカラスが「アー、アー」と鳴いて笑ってしまう。

突然子供を叱りつける女性の声に動揺する。

こういう音はどれも、

ひとたび考え事を始めると全く聞こえなくなるのだが。

 

いつか観た、最果タヒという素敵な詩人の詩を映像にした

夜空はいつでも最高密度の青色だ」という映画は

ヒリヒリ切ないラブストーリーだったが、

音の鳴り方が本当にすばらしかった。

 雑踏の、群衆の、居酒屋の、道端の、深夜の。

登場人物の気持ちが聞こえる音を選んでいるんだろうな

(という演出意図だったのかな)、と感じた。

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映画でも演出でもないけれど、

日常で自分の耳がひろう音はきっと、

その時の気持ちがキャッチしているのだろう。

 

 

 

LUCKY

 

うれしい!

「今年の年賀状の文章よかったんでナレーション頼みます」ですって。

ほんとですよ。年賀状で仕事きたの初めてですよ!?

ありがたいことです。

というわけで、くだんの文章をこちらにも貼っておこうと思います。

(実はさっき日付操作して年頭に書いたテイで一度貼ったんですが、

やっぱり今日の正直日付でリポストすることにしました)

 

沢辺香’torch’2019新年のご挨拶。昨年よかった映画の話です:)

 

*******

 

男の名はLUCKY。毎朝5ポーズのヨガ。グラスに入れて

冷やしておくミルク。カウボーイハットに格子柄のシャツ。

散歩。91歳。「パリ・テキサス」はじめ名脇役として数々

活躍した俳優ハリー・ディーン・スタントン最後の映画が、

この一年ココロを照らしてくれていた。人生の最晩年を迎

え、初めて生について哲学する元兵士の爺。「上滑りした

会話より気まずい沈黙の方がいい」「孤独と一人は同じじ

ゃない」「俺がいなくなってもリクガメのルーズベルト

きっと生きてる 」「みんなには内緒にしといてほしいが

実は死ぬのは怖い」。誰の上にも時間は平等に流れている

ことや、青い空の下日常をつつがなくつづけられることの

ラッキーを、マリアッチの優しい響きとともに映画は教え

てくれた。91歳は自分には何十年も先だが、いつでもある、

は永遠には、ない。俳優という職業を生ききってスクリーン

の向こうに姿を消したスタントン爺の、こっちを見てニッと

笑ったラストは、乾いた希望に満ちていた。私をあたためて

くれた一本、「LUCKY」(ジョン•キャロル•リンチ監督作)。

自分もだれかやどこかを照らす一本の松明(torch)でありたい。

本年もどうぞよろしくおつきあいください。

 

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アンフェアな勝負「北風と太陽」

 

有名なイソップ童話「北風と太陽」ではこう言っていた。

無理強いしてもうまくいかないよ、と。

旅人のマントをどちらが先に脱がせるかという競争で、

強風でマントをぶっ飛ばしちゃえ!と目論む北風に

ニコニコ照らして旅人を暖めまくった太陽が勝つ。

教訓は「強制するより相手を自らその気にさせるべし」。

そりゃそうだ、と自分も深く頷いた。

 

この話をネタに

「企画をごり推しするよりお客さんへ共感を作りながら説得すべし」

「市場インサイトに敏感に販促を考えるべし」

なんて仕事に関連づけてオチつけようみたいな気はなく。

この童話に自分はもうひとつ別の教訓を感じたので、

それを書こうと思う。

 

北風はただの「風」ではなく「北風」なので、もともと冷たい。

北風のコマンドには

「冷たく吹く(冷たさ度合いはいろいろできる:)」か

「なるべく吹かさない(風なので「無風」はできないはず)」の

どちらかしかない。

でも太陽は

「ギラギラ照らす」「ほどよく照らす」「照らすだけ(明度あげるだけ)」

みたいな幅で温度を自由に上下させられるわけで、

どんどん照らして旅人を日射病で殺すこともできるし

ポカポカさせまくって眠気を誘い旅を続けられないようにしたり

ちょっとしか照らさず旅人を凍えさせたり

骨粗鬆症にしちゃったりもできる。怖い。

この二者じゃ勝負にならないよなあ…そう思った。

 

つまりこれは、元々「能力」「個性」に差がある二者の勝負で

「北風の負け」を通して教訓を語ろうという、

結果ありきのストーリーなんです(イソップだから当たり前か)。

いや、世の中はこの話のように実力差や向き不向きがある中で

競わねばならない場面の方が多いのだし

この話にフェアを求めてもしかたないけど、

よく知られている方の教訓「強制せず対象自らをその気にさせるべし」

だけではなくて、

「能力差のある相手と不利な勝負をする場合、いつもの技だけでは勝てない」

という教えもあるなと。

 

ちなみに、翻訳童話などには「風と太陽」という版もあるみたいですが、

イソップの原題は「北風と太陽」のようです。

(安易なソースで恐縮ですが英語版wikipedia

https://en.wikipedia.org/wiki/The_North_Wind_and_the_Sun

 

北風が「そよ風」だったら、結果はまたちがったかもしれないなあ。

 

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ハッとしてプチ反省

 

いつのまにか

映画やドラマでの「お約束的展開」に慣らされちゃってるな〜

と気づいた、先日のプチ反省。

 

・・・

ある映画で、失踪していた男が久しぶりに女のもとに戻り、

雇われたカフェのカウンターに初めて立つシーン。

「あんたコ−ヒーなんか淹れられるの?」と問う女に

「うん。さっき教わった…」と言って男が厨房に消えてしばらく、

奥からゴボゴボゴボ…と由々しき音がして、女が心配顔になる。

 

ここで当然(というか無意識に)私は、

「ごめん、失敗しちゃった〜」と男が出てくるか、

女がひどくまずいコーヒーを前にしているシーンに続くと思っていた。

 

ところが映画は、しばらくの間の後

カウンターでうまそうにコーヒーをすする女の姿になった。

「うん。おいしい」と。

 

・・・

それだけのことなのだが、

軽く意表をつかれたことが心に残り、

監督はなぜそうしたのか、と考えるきっかけになった。

そして、自分はなぜそう決めつけていたのかと。

 

 

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上記のシーンが含まれています。

地味だけど(スミマセン)しっかり人間味のあった映画

「ひかりの歌」杉田協士監督/渋谷ユーロスペース他 

 

 

ご用意されていなかった言葉

 

「コトバ」山本高史さんの修行時代のコラムを読んで、

自分もコピーライターになりたてだった頃のことを思い出した。

 

学校を出て制作プロダクションに就職して1年目。

先輩の指導の下書かせてもらったのが、とある大手ホテルの

サービス紹介ブローシャ(小さいリーフレット)。

まず自分でひと通り書き、そのあと先輩に見てもらったのだが、

その時に入ったある直しの言葉に強烈な違和感を感じて

真っ向質問したことがあった。

 

その言葉とは、

「ご用意しています」

「ご利用になれます」。

 

以下、先輩にグイグイ迫った私の質問。 

 

「小さいお子さまのメニューも ’ご用意しています’ って変とちがいますか?

  'ございます'  '用意しています' ではなんであかんのですか?

(大阪の会社でした:)」

「'ご利用になれます’ も変な感じします〜。

 '利用' の中にもう ’何かする’ という行為が入ってるし 、

 'ご利用になれます’ やと意味かぶってる気するんですけど」

「それに、丁寧語で  'ご利用’ ってなんかすごい違和感あります。

 'お使いになれます' ではあかんのですか?」

 

途中のやりとりは忘れてしまったが、

チーム長でもあるコピーライターの先輩は上記をじっくり聞いてくれて、

最終的に

「こういう時に'ご用意しています'って書くのは普通なんや。

おまえの言うてる表現でも合ってるけど、このクライアントの刷り物では

こういう時はこう書くんや」。

そうおっしゃったと記憶している。

そしてその後数ヶ月で(これくらいはかかった気がする)、

私もこの言い回しにすっかり慣れてしまった。

 

「ご用意しています」「ご利用になれます」。

説明コピーの常套句には独特の言い回しがあると思う。

社会人経験がなくコピーなど書いたこともなかった私の語彙の中に、

この言葉はまだご用意されていなかったのだった。

注目をあびるようなキャッチコピーでもなく

心を打つようなボディコピーでもなく、

説明パンフレットの中の小さな部分のフレーズではあるが、

その時の自分にはそれがとても大きな疑問で、

納得しないと先に進めなかった。

 

今思うと先輩、困っただろうなあ…

その時の違和感は、もう微かにしか思い出すことができないけど、 

思い出してふと内省的になったエピソード。

 

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